巻 頭 言

さる４月23日の恒志会臨時総会において皆様に推挙され、２代目の理事長に就任しました。身に余る大役です。
片山先生が生涯の集大成として、情熱を注がれた恒志全活動を継承、発展させるために、皆様のお力を得ながら、微力ですが、努力したいと思います。
会員、理事皆様のご助力を切にお願い致します。
 

さて、片山先生は開業歯科医として、臨床に携わりながら、歯周病、虫歯が生活由来性疾患（生活習慣病）であることを見抜かれました。 40数年前のことであり、画期的なことです。
 

歯周病、虫歯の治療には、患者さんの治療参加と生活改善が必須であり、その病因に、どう気づいてもらうかに、大変にご苦労されていました。
 

第一義的な病因である歯垢が、生きている細菌群であることを理解してもらうために、位相差顕微鏡とテレビカメラを組み合わせた装置を開発されました。このシステムは歯科界で普及しています。
 

また、カラー写真で口腔内、歯肉を撮影し、ブラッシングなどの治療効果を患者さんに認識してもらうためのシステムを考案されました。カラーフィルムが日本で発売されると直ぐに取り入れられました。スタディークラブの発表用ではなく、患者さんの治療参加を促すためです。
 

さらに一番ご苦労されたのは、食生活の改善でした。
 

第二次世界大戦後日本経済の復興と共に、人々の生活にもゆとりが出てきました。砂糖、白いパンはあこがれの食品でした。その他諸々の加工食品が、豊富に出回り、野菜、果物もビニールハウスで加湿され、季節を問わず、人手可能になりました。
 

豊かな食生活からの、虫歯、歯周病の蔓延にたいして、徹底的な病因除去を治療の柱として歯科臨床を進めておられた片山先生が、注目されたのが、W.A.プライス博士の業績でした。
 

戦前から雑誌等で紹介されていた、W.A.プライス博士の論文が1945年に書籍として出版されていることを知った片山先生は、NHK外信部におられた、鈴木博信氏の奮闘とご助力で原著が日本国内に１冊有ることを探し出し、１週間だけ借り出すことができました。
 

その原著の数々の写真から、食生活の変化がいかに身体に大きな影響力を及ぼすかをはっきりと確信されました。そして、患者さんの食生活の見直しと改善への動機付けに最適な書物として、畿多の困難を乗り越えて翻訳、自費出版されたのでした。
 

いま、「生活習慣病」という言葉は一般化しています。さらにその前段階の「メタボリック症候群」についても社会的認識は広まりつつあります。
 

生活習慣病の治療原則は「自覚」「自助」「自立」です。
 

いままでの医療のパラダイムと全く違います。片山先生の先見性には驚かせられ、敬服するばかりです。
 

さて、恒志会は多岐にわたる活動を目指していますが、現実を直視して、幾つかの活動に絞らざるをえません。
重点項目を挙げると

1. ビデオセミナーを成功させ、会員獲得と若手歯科医師の育成をめざす。
2. 会報の定期刊行をめざす。
3. PPNFとの友好関係を発展させる。
4. 日本有機農業研究会との友好関係を発展させる。

いずれも会員、理事諸兄のお力が必要です。重ねてのご助力をお願い申し上げます。

この度NPO法人恒志会の活動の一環として、新たに機関誌発刊を行うにつれ所感のご挨拶を述べたいと思います。
 

これからの活動は、総て従来から行ってきた主たる活動をそのまま継続するとともに、新たに機関誌の発行が行われることになりました。

従来の活動とは、第一に、私の業績を見ていただき、その主旨を聞いて頂く実績写真によるセミナーの継続とも云うべきビデオによるセミナーとし、第二に、外国図書の翻訳或いは自分の意見を業界雑誌から発表を求められたことに応じて、自分の顕(あらわ)にすることを避け、ある点を押さえるような書き方で応じるよう終始こころがけ発表することなどです。

また、この会誌を利用し、従来から親しくしていたアメリカPrice-Pottenger Nutrition Foundation(PPNF)との交流の状態、或いは、その他の来発表の諸事を会員の皆さまにお伝えすることも可能になりました。

そこで問題は、従来の活動とどう違うのか、それを考え、第一回総会の時に理事の皆さんにお話申しあげ、ご理解頂いた点をここに簡単に述べさせて頂き、お伝えしたいと思います。

今まで私一人の胸の内に収め、いつか本当に分りあえる人にお話するつもりでおりましたが、そこまで詳しく聞こう・・・となさる人もおりませんでした。言い換えれば、無難な言葉として聞いて頂いただけに過ぎなかった医・患共働（共同）・生活由来性疾患・全体的にフィジオセラピーとしての医療、以上のような言葉を使いながら説明を進めてまいりましたが、実際のところ詳しく真意を訊ねる方がいなかったので、私の意向を発表し内容と運営の方法を詳しく述べることは意図的に差し控えておりました。
 

しかし、医療の内容も日本人の生活内容も大きく様変わりしようとしている今日、この改革の時代に訊ねられることがなくても言い出すべきものと考えるがために、ここで舌足らずになる覚悟で、誌面の許す限り申し述べておこうと思います。
 

まず第一は、生活由来性疾患或いは生活習慣病は、己れの生活に悪習慣を重ね続けているそのことが原因で起こる疾患であるならば、その病因・病根を生活の中から完全に除去してこそ、再燃・再発のない真の治癒が見られることは誰にでも分かる問題です。
 

その問題が云われもせず、考えられもしないのは何故なのか。

病気で苦しんでいるその人に、それは過酷で無理だと決めていました。

しかし昨今は、日常のテレビでさえ放映されているもの、例えば、食事療法・運動療法の正しい指導であり、手術後、従来は不可能だと考えていたことごとを考えて考え直して、翌日からでも出来るだけ早く、一日も半時も早く回復させるためのリハビリ運動。そしてその方法が健康回復のために正しく、良き方法。つまり、それこそが正しく良き介護であることが次第に進められ広げられています。

本当の医療の成果、「早く、良く、安く、その上に再燃・再発のない回復」こそが真の医療であり、それが行われる時に、運動だとか食事だとか或いはまたストレスの解消までも医療担当者と患者と共働で努力した結果が、この再発のない回復の状況を保ち得ているその結果からさらに患者は努力を継続する。

つまり生活を改善し、生活の中から病因・病根を断ち切る継続的な努力を医療担当者と患者（或いは患者自身でなくても介護者を含めた人々）が行なった結果として、それが正しい医療と考えます。

そしてまた、その患者並びに介護者の努力によって得た自分たちの幸せを、より多くの人に伝え知って貰うことこそが、NPO法人恒志会の真髄と考え、ここに発表すると同時に分かっていただける努力をしていく。

その一端を会報で皆さまにお伝えするのが会報の使命だと申しあげ、発刊に当たり所信をあえて申し述べさせて頂きました。

最後に、多くの会員の中から選ばれた数名の理事諸君、理事とし活動して頂く方々は、会を運営し、会の意味合いと繁栄に向けての進行に努力をして頂く筈だと確信しております。

片山恒夫先生がW.A.プライスのDental Infections vol.1 vol.2を入手されてから23年、G.E.マイニーの「Root Canal Cover-Up」を人手して翻訳を決意されてから15年になります。
 

このほど多くの方々のお力をお借りして「Root Canal Cover-Up」を翻訳した、『虫歯から始まる全身の病気一隠されてきた歯原病の実態ー』の発刊にこぎ着けました。
 

病巣感染の視点で歯科処置に伴う諸疾患についてプライスが25年の歳月、5000羽のウサギと医科、歯科60名の研究者の協力を得て行った様々な実験の知見を、上下二巻1178頁にまとめて1923年に発刊されたのが、Dental Infections vol.1 vol.2です。
 

当時病巣感染説は大論争になったようですが、隠蔽されてしまいました。
この業績をマイニーが再発見して1993年に230頁の要約本として、一般向けに出版いたしました。毎年のように版を重ねて2007年には8刷まで出版されています。隠蔽された経緯をマイニーが考察して『虫歯から始まる全身の病気』に書かれています。
 

マイニーは米国歯内療法協会の創設メンバー19名の一人で、歯内療法専門医です。
歯内療法後に象牙細管に潜んだ細菌が変性して毒素を出すことから起きる病巣感染の可能性について、明らかにするのには勇気と決断を迫られたことでしょう。
 

プライスは感染根管と退行性疾患との関連について患者の３代にわたる詳細な病歴を調べてから抜歯し、その患歯で様々な角度からの慎重な検証研究を行っています。

マイニーも性急な抜歯をいさめ、「抜歯をしてどうして歯を残す術を学べようか」と強調しています。そして、虫歯予防の大切さを食生活を含めて言及し、免疫力の強化が大切である、としています。

このような経過があり、プライスは Dental Infections 出版の後、14カ国を巡り、各民族の食生活と口腔・身体の変化の調査をまとめたのが、Nutrition and Physical Degeneration 『食生活と身体の退化』です。
その結論はご存知の 「Life in all its fullness is this mother nature obeyed.　生命があらゆる面で十全であるためには、母なる大自然に従って生きなければならない」となっているのです。
 

今回、編集・出版作業を通じて、片山先生がいつも申されていた先達プライス博士の偉業の数々を学べたことは大きな喜びです。
 

また、病巣感染の視点で研究、臨床に当たっておられる、形浦昭克先生、堀田 修先生、奥田克爾先生との接点が出来、７月に催す創健フォーラムヘと拡がりました。
 

健康確立には医科・歯科連携が欠かせないこと、さらには口腔医という新しい枠組の創設の必要性を強く感じます。
それに先立ち、口腔疾患を生活習慣病として捉えることが大切でしょう。
 

“予防には、生活改善が欠かせず、歯科医がその指導を担うんだ、口腔の健康を通して、その人の健康への指導医になるのだ”と片山先生がおっしゃっておられた意味を翻訳・編集に携わることで、一層理解を深めることが出来ました。

2008年「虫歯から始まる全身の病気」の翻訳出版を記念して「病巣感染を再考する」と題する創健フォーラムを開催しました。

その機会に恒志会では口腔医学の創設を提唱しました。

口腔医学の定義については、未だ定まっていませんが、私は非常に分科した現在の医科学を鼻咽腔・口腔と全身との関係について、歯科、内科、皮膚科、耳鼻咽喉科等の関係領域を学際的、統合的に捉えようとするもの、と考えています。

言うまでもなく、鼻咽腔は呼吸を、口腔は食物摂取の機能を司り、どちらも生命の源です。 それらの形態、機能が食べ物の豊かさと食生活や生活習慣の変化に反比例して、低下・機 能不全となり病巣感染から全身病を生み出しています。口呼吸も病巣感染の契機になると考えられます。

このような時代こそ先人の業績、警告にいまいちど謙虚に耳を傾けることが、重要でしょう。W. A.プライスが25年の歳月と60余名の医師・歯科医師のチームで研究した病巣感染についての成果は80年にわたり隠蔽されてしまいました。

その為、象牙細管に潜んだ細菌の動向や細菌が出す毒素が全身にさまざまな病状、病巣感染を引き起こすことの解明がなされませんでした。現在でも象牙細管の消毒、殺菌についても臨床術式が確立していません。

二回にわたって「病巣感染を考える」をテーマに創健フォーラムを催しましたが、まだまだ課題を残していると思われます。

当面は歯科と内科、皮膚科、耳鼻咽喉科等との連携を密にすることで診療実績、知見を積み上げていく必要があります。

今年の創健フォーラムでは「口呼吸を考える」をテーマに準備を進めています。いま、小学校児童に口呼吸の子供が増えているとの声を多く聞きます。 上下顎骨の発育の不均等からの鼻腔の狭小、歯列の乱れ、咬合の乱れが、口呼吸を来たし、将来の万病の元になるとの警告もあります。口呼吸を招来する諸要因について、問題提起と解決の糸口を提案できたらと、考えています。

新しい視点での口腔医学の確立には、法整備を始めとする医歯学教育、医療システム、医療保険制度の変革が必要でしょう。

志を同じくする医師、歯科医師と共に息の長い活動が求められます。

W.A.プライスが1923年に出版した〔歯牙感染 ―口腔と全身 第Ⅰ巻〕、〔歯牙感染と退行性疾患 第Ⅱ巻〕が日本の歯科大学に寄贈されたのが1926 年でした。

しかし、その大書( Ⅰ、Ⅱ巻で約1200頁 )は 2007年まで歯科関係者の目に触れる事はまったく有りませんでした。

アメリカ歯内療法専門医 G.E.マイニー がプライスの著書の重要性に気づき、その要約本を ROOT CANAL COVER-UP として1993年に出版しました。

片山恒夫先生は早くからプライスの業績に注目されており、要約本を知り翻訳出版に取り組まれましたが、志半ばで2006年2月に逝去されました。 片山先生のご遺志を引き継ぎ、我々恒志会が「虫歯から始まる全身の病気」として出版したのが 2008年です。

日本の歯科関係者がプライスの偉業、「歯牙感染と全身の病気」に触れたのは80年後でした。偉業はまさに隠ぺい (COVER-UP) されていたのでした。 一方、腎臓内科医・堀田 修氏は Ig-A 腎症の治療体系の確立に際して、病巣感染の視点から口腔(扁桃、上咽頭、歯肉、歯牙)に注目され、その重要性に着眼されました。

扁桃摘出、虫歯・歯周病治療、口腔清掃の徹底 とステロイドパルス療法の組み合わせで治療実績を上げられ、世界で初めて難病治療の突破口を開いたのでした。「慢性免疫病の根本治療に挑む」堀田 修 著(2007.4発行)

免疫学の進歩は著しく、特に昨年からの口腔病巣感染と全身に関するニュースを目にすることが多くなりました。

• 2010. 4.  7 　脳梗塞患者では歯周病原菌感染者が 1.2倍高い。広島大研究グループ。
• 2011. 9. 28　虫歯菌が脳出血を助長し、発症リス クを4倍にする。阪大などの研究 チーム。
• 2011. 5. 20　歯周病原菌が動脈硬化を悪化させる 因果関係を遺伝子レベルで解明、歯周病予防や治療で動脈硬化の発症が抑えられ、医療費の抑制にも結びつくと。新潟大歯学部。
• 2012. 2. 23　飲酒しない人も発症する非アルコール性脂肪肝炎患者が歯周病原菌を保 有する割合は健康な人の4倍と高く、歯周病治療で肝機能が大幅に改善すると。横浜市立大、阪大チーム。

オバマ大統領も訪れた日本科学来来館で "１たす１が２じゃない世界" の展示が2014年2月〜9月まであり、NHK TV 視点・論点でも取り上げられた。

そこでは、日常の身の回りには１＋１＝２ではなく、１＋１≠２の世界が多いことや、自然は１＋１≠２の世界であることを楽しく学べるようになっていた。

以下は私の意見であるが、もともと１＋１＝２という数式はヒトが人間的社会利便性のために作り上げた規則である。

便利に都合よく、快適な生活にと便宜的に作り上げた産物であり、文化である。

その文化の中でも最も基本で､単純な規則なので、自然界での原則であるかのように錯覚して、現代人であれば誰でも、全く疑う余地なく１＋１＝２は正しいと答えるし、科学性の礎にもしている。

それは誰でも生れてすぐに両親からすり込まれ、保育園から大学への教育各段階の度に強化され、規律化して、正義になる。

故にその文化生活では１＋１＝２なのは当然だし、その頭でなければ、人間としておちこぼれて、今ここにはいない。

自然界ではあり得ない１十１＝２であり、真理の世界では、初めの１と後の１は同じではない。これを同じものとしたのは、人間特有の便宜性である。

加えて２と決めた規則は、ヒトが個として生きるよりは、複数で周囲との人間社会を形成して、そこでの人間関係を円滑にするために、自然と自己を無視して、人間が便宜的に十把ひとからげにして、勝手に規則化したもので、文化とした。

その文化を受け入れて生きるほうが便利であり、快適であるが、その世界では人間は病むことができる。

ヒトは人間が作り上げた便宜的社会の中で病む。それは元の心身（ヒト）は真理の自然界で生まれたのに人間社会を生きていくために人間が作り上げた便宜的社会を受け入れて、文化生活をする。

その自然と人間便宜性とのギャップが、そのひずみこそがヒトを病める人間にさせるのである。

W. A.プライスは地球レベルで調査して、その著書「食生活と身体の退化」の中で“先住民は白人文化が入り込むことで病む”ことを真実と伝えている。

好んで病むヒトはいないが、無自覚に･無意識的に病人になっていく。病識がないのも当然である。

そして病態が自己管理能を超えたとき、他者に身をゆだね、治療を受ける患者になる。ヒトは文化の中で病人になり、次いで患者になるのである。

そして病んだ人間は必ず治りたがる。それも人間便宜的社会の中で治って、さらに、なお利便生活を謳歌できるように求める。

この１＋１＝２の上に成立する歯科医学での診療は対症療法でしかないし、それを超えることはできない。それは修理作業をしているに過ぎない。

１十１＝２では治癒しないが、１十１≠２の世界であれば自然治癒すらも起こり得る。

例を挙げる。中村天風は1906年結核を発病し、日本･米国・欧州にて医療を受け、医学を修めても治せなかった重度の肺結核を、ヒマラヤ山中でヨガの聖人カリアッパ師の指導のもと、文化人であることが心身の病気の治癒を妨げていることを諭されて、文化人から脱皮し、天の声を聴くほどに自然に溶け込み、自然と自己が融和した結果、医学では不可能であった結核を自然治癒に導き、完治させて、２年7ケ月後の1913年帰国した話は有名である。

真理を生きるのであり、デカルトのいう ”人類は病むことを通してこそ道理を学ぶ” のだ。

今年のフォーラムの特集は『口と脳』である。

文化をどう使いこなすかの問題であるが、口腔管理のブラッシングは即時に脳に影響を与え、また、重力に沿っている噛み合わせも歯根膜反射での判断で、即時に脳に影響を与える。

歯肉マッサージブラッシングと生理的下顎位での噛み合わせは副交感神経系を優位脳にして､心身を健全化する。しかし、歯磨きと、ミクロン単位変位した非生理的下顎位での噛み合わせでは交感神経系を優位脳にして､種々の病気を発症させるようになる。

自然と自己が融和する正しい脳内生理は副交感神経系優位脳であり、ストレスすら自己制御できる。

最も恐ろしいことは、人間が作り上げた便宜的社会での不正な文化人脳は、自らがヒトを絶滅危惧種に追い詰めていることすら気づかないで、快楽を追及していることである。

これは歯科が参加することで改善可能である。みんなでガンバロー！！

37年前、昭和54年1月の『歯界展望』に掲載された片山恒夫先生のインタビュー記事「栄養指導を柱とした歯科治療」を読み返してみた。それは片山先生がプラ イス博士の原著を完訳され、『食生活と身体の退化』という日本語題で自費出版されたころに発表された記事であった。

その中にブラッシング指導だけでなく、食べるということに直接かかわりのある歯科医が食生活の指導という任務を受け持つことは非常に合目的であり、それでこそ予防が達成できるというくだりがあった。

それは歯科にかかる患者は健康な老若男女だけでなく、内科や外科、産科など全科にわたることから、その食事指導を行う歯科医は重要な役割を担っているということを意味する。そして歯が痛くて食べられないから痛みを止めてほしいという患者の願いに対して、なにが食べられないのかという問いから素直に食べ物の話題に入っていける歯科の仕事の方が医科よりもやりやすい面があることを示唆している。

そう考えると片山先生は総合病院の院長にふさわしいのは歯科医であるという理想を抱いておられたのではないか。

その一歩として言葉だけで人々を納得させるよりも権威ある情報源としてプライス博士の原著を翻訳しそれを読んでもらう、写真だけでも見てもらおうとした片山先生の想いが伝わってくる。

そこには患者が知識を得て改善したいという気持ちが歯科医を突き動かすことになり、歯科医は『食生活と身体の退化』という指南書をもとに患者教育を実行するという二つの意味を含んでいるように思う。この患者と医師が協働し合うことが片山医療の根幹であるが、肛門外科医である私の場合はどうだろう。

痔の原因である便秘を改善するための食事指導は当然の使命であるが、患者のモチベーションを維持するための効果的な方法は？

この難問題はいまだ未解決であるが、この記事を読んでいるとまた改めて取り組んでみなさいという片山先生の声が聞こえてくるような気がしてならない。